止まったカルテ
いまのカルテの多くは、2000年代初頭のデザインをベースに、ツギハギで機能を足してきたシステムです。モダン化は少しずつ進んでいます。ただ、その間に Web の考え方は変わったし、システムはクラウドに乗ったし、SaaS も新しい UI/UX のやり方もどんどん積み上がりました。カルテはそこに追いつけていない、と思います。
そこにさらに、生成 AI が来ました。
AIが動くカルテ
私が作りたいのは、AI が当たり前にそこにいるカルテです。
AI がカルテの中を縦横無尽に駆け抜けて、人間の shit job を片づけて、散らかった情報の交通整理をして、頼もしい相棒になる。カルテって本来、そういう未来の医療の土台であっていいんじゃないか。ずっとそう思っています。
F1としての実験場
私たちのビジョンは、既存のカルテを置き換えることでも、どこかと戦うことでもありません。やりたいのは、ビジョンを届けることです。
イメージは F1 に近いかもしれません。F1 で試された技術が、時間をかけて市販車に降りてくる。Manta も、ある意味でその実験場だと思っています。ここで最先端を試して、うまくいったものが現場に少しずつ伝わっていけばいい。
ただ、実験場だからといって妥協はしたくありません。むしろ実験場だからこそ、いちばんいいと思えるものを、妥協せずに作ります。
ロックインという敵
AI が動くことと同じくらい大事なのが、相互運用できるデータ形式です。この二つが、同時に必要です。
私がいちばん恨んでいるのは、ベンダーロックインです。データが一社の囲いの中に閉じ込められて、外に出せない。他とつながらない。現場の「こう直したい」も反映されない。医療みたいに公共性の高い領域で、これが当たり前になっているのは、どう考えてもおかしいです。
だから Manta は、いったん HL7 FHIR(JP)を採用しています。正直、FHIR が正解だとは思っていません。思うところは色々あります。それでも、自分たちで独自形式を作るより、すでに米国で実績のある FHIR に一回乗っておくほうが正しい。そう判断しました。
これについては後々変更するかもしれませんが、共通フォーマットが重要であることはこの先も変わらないと思います。
技術のこと
技術選定には、妥協した部分もあります。私は技術ヲタクなので、この部分は先に申し上げておきたいです。
Web で作る以上、フロントエンドは JavaScript(TypeScript)で決まりです。ここに選ぶ余地はありません。逆に言えば Web だから、インストールも要らないし、どの端末でも同じ画面が動く。マルチプラットフォームは勝手についてきます。
Javaが夢見たマルチプラットフォームの世界を、今度はWebで実現します。これはもう2010年以降デファクト・スタンダードと言っても構わないでしょう。デスクトップアプリですら、Electron, TauriなどWebベースが採用されています。
悩んだのはバックエンドです。個人的に使いたいのは Rust でした。メモリ安全性、実行効率、言語そのものが課してくる制約。医療という領域で、これだけ大きいものを長く作るなら、この堅さは効いてくると思います。dicom-rs みたいに、医療まわりのライブラリも育ってきました。
それでも、最初は Python にしました。
このプロジェクトは、多くの人が入ってくれないと成り立たないからです。最先端であることと、コードが読めること。その両方が要ります。これまで医療ソフトに手を入れられるのはエンジニアだけでした。でもこれからは、臨床医だってコーディングエージェントを使えばこのようなプロジェクトに参加できるのです。そのとき、読みやすさは、そのまま入りやすさになります。だからいまは、Python で速く、広く作ります。
Rust への移行は、いつか私か、私のチームが引き受けるつもりです。自分はPython も Rust も書きますし、すでに2026年現在では Rust 化に成功したプロジェクトが散見されます。いまの AI コーディングエージェントがあれば、移行そのものは十分いけると踏んでいます。
オープンソースという礎
最初は、比較的自由で商用利用も認める Apache License 2.0 でいきます。将来は変えるかもしれませんが、まずはここから。
理由はシンプル。閉じたくないからです。ここに、できるだけ多くの人の知見を集めたい。これまで、こういったプロジェクトは、エンジニアの視点しか注入できませんでした。でもこれからは、コーディングAIのお陰で、臨床医もここに加わることができます。だから、できるだけ広く開いた場所にしておきたいんです。
これは建前ではありません。いま私が書いているこの文章も、Manta が置いてある GitHub も、その裏で動いているサーバーも、ほとんど Linux の上にあります。コードはもちろん git で管理されています。人類がこの OSS のエコシステムを手に入れたことは、それ自体が発明で、ひとつの勝利だと思います。私たちは毎日、その恩恵の上でコードを書いています。
医療は、公共性が高い。なのに、いまの日本ではそれがコントロールできなくなっています。ベンダーロックインが当たり前で、相互運用はできなくて、現場の改善も反映されない。国によっては、相互運用を法律で義務づけていたり、カルテの基盤そのものを国が持っていたりします。日本は国民皆保険という、すごくいい仕組みを持っています。それなのに、その上で動くシステムがこの体たらくで、アップデートされないまま放置されている。これはまずい、と本気で思っています。
OSS の精神こそ、これからの医療を変える礎になる。私はそう信じています。
そして中立だからこそ、皆さんの率直な意見や、素晴らしい力を受け入れることができると思います。
まだ途中
書けるのは、いまのところここまで。話したいことはまだたくさんあります。これは第一稿で、これからちゃんと書き足していきます。
もし少しでも引っかかったら、一緒に作りませんか。医師でも、医療事務でも、看護師でも、エンジニアでも、デザイナーでも。あなたの視点が入るたびに、Manta は良くなります。